ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
野外でのライヴ

4.酔っぱらいが来る

野外でのライヴだと、開放的な気持ちになるせいか、客の酩酊度も高くなるようだ。ある野外コンサートの最中、私がMCをしていると、完全にできあがったおっさんが、
「おい、なんで演歌やらへんのじゃ!」
 とずーっと叫びつづけていたことがあった。わざわざ私がMCをしているマイクのところまでやってきて「演歌せえ演歌!」とわめくのである。わかりました、演歌をやります、と言って、たしかウディ・ショウの曲を演奏したような記憶がある。

 

5.ほかの音が聞こえてくる

ヘリコプターの音がとにかく最悪である。すべての演奏をかき消してしまう。あとは、カラオケ。あれはすごい。天王寺の野外音楽堂の外を通りかかると、バンドの演奏とカラオケが混じり合って、一種の前衛音楽のように聞こえてきて、あれはなかなかかっこよかったけど。

 

6.客が足をとめない

ライヴハウスやホールなどの閉鎖的空間だと、客はどこにも行かず、おとなしく聴いてくれるが、野外だとすぐに立ってうろつく。演奏がおもしろくないときは、露骨にそれを行動に移す。プロのバンドでも、おもろないぞこいつら、と思うと、テントのアイスクリームに長蛇の列ができたりする。野外でのライヴの場合、客の注意をこっちに向けるのに、室内での演奏の三倍ぐらいのエネルギーを要する(落語でも漫才でも同じだが)。

 

というわけで、野外ライヴでの諸注意を書いてみたが、参考になっただろうか。野外でのコンサートを予定しているビッグバンドの皆さんは、ぜひ、メンバーに「晴れ男」を加え、殺虫剤を大量に用意し、演歌をレパートリーに入れてからのぞんでほしいと思う。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
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