ビッグバンド漫談
バックナンバー
田中啓文のビッグバンド漫談
バンド名をどうするか

アマチュアビッグバンド結成時には、これらをふまえて、いい名前をつけなければならないが、気をつけるべきことは、
・なるべく印象に残る名前がいい
・できればかっこいい名前がいい
・ややこしいよりはシンプルな名前がいい
・オリジナリティのある名前がいい

ということだ。しかし、いくら印象に残る名前がいいといっても、「コンピレパンピレペケペントンピラパレハレホレヒレハレ・ジャズ・オーケストラ」はまずい。長すぎて覚えにくいからである。かっこいい名前がいいといっても、「俺の名前? ふっ、風にでも聞いてくれ・ジャズ・オーケストラ」はまずい。口語表現すぎるからである。シンプルな名前がいいといっても、「う・ジャズオーケストラ」はまずい。最初の一音を聞き逃すと、ただの「ジャズ・オースケトラ」としか聞こえないからである。いくらオリジナリティのある名前がいいからといって、「卵母細胞の卵巣における減数分裂に際しての特徴について・ジャズ・オーケストラ」はまずい。一般性がなさすぎるからである。という具合で、バンドの命名というやつはなかなか一筋縄ではいかない。私のバンドである「ユナイテッド・ジャズ・オーケストラ」は、一見、かっこいい名前である。ウディ・ショウの曲を何曲もレパートリーにしていたので、ウディ・ショウのアルバムタイトルである「ユナイテッド」から取ったのだろうという噂もあったが、真実はちがっていて、じつは関西学院大学と神戸大学のOBが中心になって結成されたバンドなので、単純に「結合された」という言葉を使っただけなのである。もちろんMCでバンド名の由来を言うときには、「尊敬するウディ・ショウのアルバム名からとりました」と言っていたけれど……。最終的に「ユナイテッド」に決まるまでにも多数の候補があった。今でも覚えているのは、トランペットのひとりが肺気胸という病気になったので、「肺気胸ビッグバンド」というのはどうか、とか、バンマスが医者なので、「ドクトル吉田と病人たち」というのはどうか、とかいう案があったことであるが、そうならなくてよかった。よそのバンドの名前で「これはいい名前だなあ」と感心したのは、「爆発五郎ビッグバンド」というやつで、これは上記の、「印象に残る」「かっこいい」「シンプル」「オリジナリティがある」の四項目をみごとにクリアしているうえ、なんとなく音楽的内容まで表現しているような気がする。こういう名前を思いつけば、もう勝ったも同然。あとはひたすら練習すればいい。

もちろん、バンド名をつけるときは、縁起のいい「画数」にすることがいちばん大事です(嘘)。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
http://www004.upp.
so-net.ne.jp/fuetako/
PAGE TOP