ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
曲の選び方

・あんまり速い曲はダメ(崩壊するから)
・あんまり遅い曲もダメ(ピッチの悪いのがバレるから)
・あんまり有名な曲はダメ(ちゃんとできていないのがバレるから)
・あんまり誰も知らない曲もダメ(お手本になるCDがないから)

めちゃめちゃ難しいソリなどがある曲を、どうしてもできないからといってその部分をバサッと削ってしまった場合、有名曲だと客に、

「あ、あそこむずかしいからカットしたのね。卑怯だねー」

とわかってしまうではないか。できれば、演ってみるとすごく簡単なソリだが、聴いているものにはすごく難しいことをやっているように聞こえる……というのが理想である……がなかなかそんな曲はありまへん。また、できるだけ一貫したポリシーが感じられるような選曲がよい。五十年代のベイシーしかやらない、というところまでいけば立派だが、そうでなくても、カンサスシティジャズだけ、とか、ギル・エヴァンスやウディ・ショウなどのモード~新主流派だけ(それはうちのバンド)、とか、四ビートはやらない、とか……そういう風な選曲ができれば、バンドとしてのカラーも確立できるだろう。ソロイストをうまくフィーチュアできる曲を選ぶのも大事である。みんながみんなソロができればいうことはないが、アマチュアバンドの場合、なかなかそうはいかない。うまいひとは各セクションに一人ずつ、ぐらいのものだろう。たとえば、トランペットセクションが弱体のバンドで、いくら曲がいいからといって、フリューゲル・ホーンがテーマからソロから全部吹き倒す、というような曲はむずかしかろう。一番いいのは、グローバル・ジャズ・オーケストラやハイライツのように、アレンジのできるメンバーがいて、そのバンドのメンバーに「当て書き」することだが、そんなバンドはそうそうありません。

あ、あと、選曲で一番大事なことは、「ちょっと背伸びした曲を選ぶ」ということである。あまりに簡単でもあまりに難しすぎてもやる気は起きない。ちょっとだけ難しい曲だと、たとえ客に受けなくても、うまくいったときの満足感が大きい。チャレンジする気持ちがなくなったら、アマチュアバンドをやる意味がないのである。そう思いませんか?

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
http://www004.upp.
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