ビッグバンド漫談
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田中啓文のビッグバンド漫談
コンサートをどうやるか

適当な店がないため、やむをえず大きなホールを借りるバンドもある。年一回の定期演奏会のような感じであるが、そういう場合はかなりお金がかかることを覚悟しなければならない。ホールの使用料だけでなく、音響、照明、ピアノなどの使用料やミキサーなどの人件費もいる。そうなるとメンバーひとり当たりの金銭的負担も相当なものになる。もちろん大きなホールでのコンサートをやり遂げたという手応えは感じるだろうが、社会人バンドの場合、メンバー間の収入もまちまちなので、なかには「ぜったい無理でおます。払えまへん」というひともいるだろう。

もっと問題なのは客の動員である。ビッグバンドは人数が多いんだから、ひとりが三人呼べばそれで六十人。あっというまじゃないか。そう考える向きも多かろうが、そううまくいかないのが世の中である。どうせほかのやつが呼ぶだろうとたかをくくっていると、結局誰も動員しておらず、蓋を開けてみると、客がたった三人ということになる。これも恐ろしいことに私の体験した本当の話であって、そのときはさすがにライブにならないので、最初はピアノトリオではじめ、それをホーンセクションが客になって、客席で聴く、という方式で乗りきった。そうしているうちに客が来るだろうと思っていたのだが、結局客はふたりほどしか来なかった。ホラー映画よりも怖い話である。まあ、私は、ある音楽祭でトリに出たときに、客ゼロという状態を経験しているので、驚かなかったが(威張るな)。チラシを作り、DMを配り、インターネットなどで宣伝し・・・なにをやっても来るときは来るし来ないときは来ないのが客だ。プロなら、毎日のように仕事があるだろうが、アマチュアの場合、めったにないライブが客三人・・・これは悲しすぎる。やはり、アマチュアといっても、客が少ないとやる気も失せるっちゅうもんである。

このようにアマチュアビングバンドが単独ライブをするには数々の難題をクリアしなければならないし、バンドリーダーなどは、演奏よりもそういっただんどりのほうで神経をすり減らし、ライブ当日はヘロヘロということもありうるわけだが、それでもとにかく「人前で演奏したいんや!」という自己顕示欲(というか目立ちたがり精神)のもとにに、今日もどこかでビッグバンドのライブが行われているのである。お互いしんどいよなあ。

著者Profile
田中啓文
1962年、大阪府生まれ。作家。
神戸大学卒業。1993年、ジャズミステリ短編「落下する緑」が「鮎川哲也の本格推理」に入選。
同年「背徳のレクイエム」で第2回ファンタジーロマン大賞に入賞しデビュー。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で第33回星雲賞日本短編部門を受賞。主な作品に「蹴りたい田中」「笑酔亭梅寿謎解噺」「天岩屋戸の研究」「忘却の船に流れは光」「水霊 ミズチ」(2006年映画化)などがある。
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