クリヤ・マコトのビックリヤ音楽鑑
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美しい歌姫から超絶ジプシー音楽へと変貌
Napra(ナプラ)

僕がヨーロッパで活動している中で感じたことは、ジャズのような洋楽を世界で演奏するときに、「自分がどこの国の人か」というアイデンティティーが非常に大事だということ。たとえば、ジャズはアメリカの音楽だけど日本人の僕がヨーロッパに行って演奏するでしょ。そのときに僕が求められるのは、アメリカ的な演奏ではなく、日本人ジャズミュージシャンとしての演奏なんだ。第三国に行くときにはどうしても「日本人」だという主張を持っていくことが必要になってくるんだよね。
2006年には、日豪交流年を記念してオーストラリア人と一緒に演奏する機会があった。そのときもオーストラリアのアーティストは自分たちのジャズがどういうものかハッキリしていて、みんなオーストラリア人らしい個性を持っていた。ヨーロッパの音楽にしても同じで、「自分たちの音楽はどうなのか」っていう答えがあるんだ。それに比べると日本人は個性が薄いというか、ずっとアメリカの方を向いてきたという歴史があって、日本人であることの意味を忘れがちだったと思い知らされる。

2006年JAJO(Japan Australia Jazz Orchestra)のオーストラリアツアー

昨年3月から4月にかけて、エジプトから始まるワールドツアーを敢行した。ハンガリーへ行き、ブダペストでライブをやったり、リスト音楽院でワークショップをやったりした。ブダペストのスタッフがいろいろと世話をしてくれたんだけど、道中現地の音楽をいっぱい聴かせてくれた。そこで僕は彼らが、単にジャズとかクラシックではなく、そういう音楽にどんどん自分たちの民族意識を入れてるのでビックリした!
クラシックの伝統が長いハンガリーでは、リストのような名作曲家を輩出しているだけあって、ミュージシャンのレベルは舌を巻くほどに高い。ぼくがデュオで共演したピーター・サリクも素晴らしいピアニストだった。ハンガリーの優秀なジャズメンが、アメリカや西欧の有名なジャズアーティストと一緒に演奏している作品もいっぱい聴いた。でも外国人の僕から見ると、そういった音楽はやっぱりあまり珍しくない。ジャズバンド、ロックバンドなどいろんな音楽を聴いたんだけど、断然耳を引いたのはハンガリーの伝統的なフォークロアをミックスしていた作品だった。

リスト音楽院でのマスタークラス

その中でも面白かったバンドにNapraがある。ハンガリーで活動している6人組のミクスチャーバンドで、フォークロアとポップスを同居させることに成功している面白いグループだ。フォークロア・シンガーがハンガリー語で歌っていて、何を言っているのかさっぱり分からない。でも、民族的な個性や味が強烈に訴えるんだ。
日本の若者だったら「伝統音楽=古い、おじいちゃんおばあちゃんが聴いてる音楽」というイメージを持ちがちだよね。でもハンガリーでは、若者がちゃんと継承して新しい音楽にしちゃってるところがすごい。
ハンガリー民謡と同じように、地元伝統のジプシー音楽も多くのアーティストが取り入れている。ヨーロッパには各国にジプシー音楽が残っていて、国によってそれぞれ違うんだけど、Napraの音楽からはちゃんとハンガリーの伝統的なジプシー音楽が聴こえてくる。もちろんそのまま使うんじゃなくて、伝統的なスタイルにロックやジャズを融合させて新しい音楽を生み出しているんだ。東西の文化が交流する土地柄を反映して、いくつかのスタイルが自然にハイブリッドしているわけ。
新旧が融合した彼らの音楽は、人々が生活の中でいろんな思いを共有するために生まれてきた感じがしてとても感動した。彼ら以外にも、日常に根ざしたリアルな音楽が種々雑多にあふれかえっていて、本当に音楽を愛して必要としている人たちなんだなあと感じた。

ピーター・サリクとのピアノデュオライブ@Take 5

というように、さまざまな要素を融合した楽曲が面白いNapraなんだけど、演奏技術も圧倒的に巧い!美しい声のフォークロア・シンガーがゆったりと歌い上げ、ツィンバロムやアコーディオン、バイオリンなどのハンガリー的な楽器が西洋的なリズムに合わせてつま弾いているかと思ったら、途中からどんどんテンポが速くなり、最後には超絶技巧とも言えるギターの速弾きへ展開したりする。曲の中盤からテンポが速くなっていくのはジプシー音楽やハンガリーの民族音楽によくある特徴。自然なアッチェルの仕方を考えると、バンドで一発録りをしているんだと思う。息の合い方といい、これは相当上手くなきゃできない芸当だ。
これが古い民族音楽なら「すごいね~」の一言で終わっちゃうんだけど、ロック、ジャズ、フォークロアが融合した新しい音楽だから若者にも支持されて、ライブでもものすごく盛り上がっている。古い音楽なんかじゃなくて、まさに現在の生きた民族音楽なんだ。

「ドナウの真珠」と称されるブダペストの夜景
Napra(ナプラ)

ハンガリーの6人編成のミクスチャーバンド。カルパティア地方の民族音楽に現代的なロックやジャズ的な要素を取り入れた新しい音楽スタイルが特徴。男女ボーカルに加え、エレキギター、ビオラ、アコーディオン、ツィンバロムなど、さまざまな楽器が登場するのもユニーク。

Napra公式サイト(英語) YouTube公式チャンネル Napra視聴サイト
Jaj, a Világ!(Oh, What a World)
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